私は１５年くらい前から、岐阜県／中津川市・子ども科学館に、
ボランティアとして物作りに参加しておりました。
そんなある日、館長さんよりとある一枚の図面を頂き、これを作って欲しいと頼まれました。
それは、機械学会１００周年記念とあり、中田孝先生設計による指南車でした。

ちょうどこの頃、私は主に、全国の中学２年生を対象に、
最先端科学への理解を深めてもらうことを目的とした
「岐阜サマー・サイエンス・スクールinなかつがわ」、というイベントに参加しておりました。

そこで、末松良一先生（国立豊田工業高等専門学校校長）と出会い、
からくり人形をはじめ、江戸時代のモノ作りを研究されていることを知り、
電気やモーターも使わずに、動いたり、何かを計測したりする、”からくりの世界”に深い感銘を受けます。

そしてここで、教育委員会の方から、
「中津川の人が作った指南車を教材として、子どもたちに作らせてあげたいので製品化できないか？」、
との依頼を受けました。

前途しました、子ども科学館の館長さんの件といい、
今回の教育委員会の件といい、そして末松良一先生との出会いといい・・・
（あと私事で恐縮ですが、社長職を退き、比較的時間にゆとりがもてるようになったこともあり・・・）、
私の第二の人生も、まるで”からくり仕掛け”のように、指南車・製作へと導かれてゆきます。

以降、生活の基盤である磯貝製作所の仕事と平行して、指南車作りがスタートします。
当初、１００人分の指南車を、私一人で作りました。
部品点数だけでも数千個に及び、作業は連日の徹夜となりました。

いくら自分で引き受けたとは言え、膨大な労力を要します。
そのたびに思ったのが、「子どもたちが喜ぶ顔が見たい！これで科学の面白さが伝われば！」
という一心でした。

おかげさまで全てを作り上げ、子どもたちに手渡り、驚きと喜びに湧く表情を見ることができ、
時より、「今でも大切に持っています」、といった言葉をかけてもらうと心底、製作者冥利に尽きます。

今後も、指南車の生産を続け、少しでも多くのイベントに参加し、
指南車を知ってもらい、実際に手に取り、作ってもらい、からくりの楽しさを体感してもらいたいと考えています。

是非一度、科学の扉を開いてみてください！

西洋では方位を指し示す場合、”北”を基準に行なっていましたが、
古来中国では、”南”であったようです。

建物を作る時も、道を行く時も、まずは南を確認してから行なわれており、
そのため常に南を指し示してくれるものが必要とされ、それがきっかけで指南車が発明されたとされています。
紀元前２６００年頃には、指南車を使って、あの広大なゴビ砂漠を横断したとも伝えられています。

以降、古来の中国では、皇帝や指揮官などの傍らには指南車が置いてあり、
立場上、上に立つ人からの指示やアドバイス、事を上手く進めるための助言などを、
”指南する”、と言われるようになり、指南という言葉の語源になりました。

その昔、指南車は、磁石を利用して南北を指す装置と考えられていましたが、
現在では、磁石ではなく、歯車仕掛けによって車上の木像が絶えず一定方向を示すように作られた装置、
と解釈されるのが一般的です。


さらに詳しい説明は、石田正治先生のホームページをご覧下さい。